Report取材レポート

Bon appétit Ishikawa!/Ruby Roman

ルビーロマン×パティシエ・辻口博啓氏。奇跡のブドウが巨匠渾身のスイーツに。後編[Bon appétit Ishikawa!/石川県]

ルビーロマンを素材にパティシエ・辻口博啓氏がつくり出したオリジナルのヴェリーヌ「ルビーロマン」。

石川出身者としてパティシエとして、ルビーロマンへの想いを胸に。

石川県発の高級ブドウ「ルビーロマン」は現在、加賀市、小松市、金沢市、かほく市、羽咋(はくい)市、宝達志水(ほうだつしみず)町で栽培されています。ルビーロマンは辻口博啓氏にとってひときわ思い入れの深い果物です。2011年(平成23年)の東日本大震災の発災後、辻口氏はパティシエとして復興支援に何か貢献できないかと考えました。被災した宮城県の中学生を郷里である石川県七尾市和倉温泉の旅館『加賀屋』に招待し、ルビーロマンを振る舞いました。その一房を初競りで、50万円で競り落としたのです。そこには1日も早い復興への願いと、地元石川県への感謝の気持ちを込めたといいます。

「日本一とも言われる美味しいブドウを味わって、少しでも気持ちが明るくなってほしい。そして、初競りが話題となりルビーロマンの認知度が上がれば、ブドウ農家の方々の日頃の苦労が少し報われるかもしれない。そんな思いがありました。初競りはあくまでご祝儀相場ですが、近年は高値の更新が続き、今年は一房140万円の値がついたとか。卸売価格も巨峰の2.5倍程度を維持しているそうで、洋菓子店を営むいち消費者として応援してきた僕にとっても、とても感慨深いものがあります。正直、高級過ぎてお菓子の材料としては手を出しにくいというのが悩ましいところではありますが(笑)」

辻口氏は、ルビーロマンの畑で受けたインスピレーションを持ち帰り、ルビーロマンを使った新しいスイーツづくりに取り組みました。お菓子づくりの技術によって素材本来のエレガントさを引き出し、果実をそのまま味わうのとはまた違った表情に昇華させます。そんな辻口氏渾身の作は、その名も「ルビーロマン」。期間限定で実際に購入することもできます。

ルビーロマンを一粒一粒、果肉の具合を確認し。愛おしむようにカットする辻口氏。

・商品名 ルビーロマン
・価格  1,200円
・販売期間 9月下旬までの予定(収穫により前後あり)
 ※毎日数量限定発売
・発売店舗
 Mont St. Clair/モンサンクレール
 東京都目黒区自由が丘2-22-4
 03-3718-5200
 https://www.ms-clair.co.jp/

ルビーロマンのみずみずしさ、皮に秘められた旨みも丸ごといただく。

辻口氏の新作スイーツ「ルビーロマン」は、ルビーロマンをふんだんに使ったヴェリーヌ(ガラス製の器に入れたデザート)です。主役であるルビーロマンは乱切りにした生の果実のほか、さまざまな形で盛り込まれています。ジュレ、コンフィチュール、赤ワインとカシスのギモーブ(マシュマロ)にもルビーロマンの果汁がアクセントに。これらにライムが香るリコッタチーズのクリームとシャンパンのジュレ、ココナッツのメレンゲが花を添えています。
ポイントは皮の旨みだと辻口氏は話します。

「みずみずしいルビーロマンを皮ごと炊いてコンフィチュールにしています。渋みも含めた皮本来の美味しさを出すと味わいに深みが出て、加熱し濃縮することで果肉の甘みも増します。フレッシュでジューシーな生の果実と濃縮したコンフィチュールを掛け合わせることで、みずみずしさと味わい深さの双方が一層際立ちます。同じブドウ由来であるシャンパンのジュレは風味にシナジーをもたらし、みずみずしさと相性のいいリコッタチーズのコクは味を立体的にしてくれます。果実のプルンとした喉越し、ギモーブのモチモチ感、メレンゲのサクサク感、いろんな食感も楽しみながら、ルビーロマンのエレガントな風味を堪能していただきたいです」

ルビーロマンを皮ごと炊いてコンフィチュールに。皮の渋みも旨みに変え、ルビーロマン本来の味わいを一層引き立てる。
ルビーロマンのジュレ、リコッタチーズのクリームなどを重ね、ルビーロマンの果実も大胆にあしらう。
合わせるココナッツのメレンゲも繊細そのもの。

食材が育まれた歴史、生産者の情熱もひと皿に。

ONESTORYフードキュレーター・宮内隼人は、試作品を夢中で完食すると、「さすが……」とため息を漏らしました。
「ルビーロマンという食材が完璧に辻口さんらしい“フランスのお菓子”になっている。グラスの中のどこをすくうかによって、味わいが変わって、そのひとさじひとさじがどれもたまらなく美味しくて楽しい。ルビーロマンくらい素材として力のあるフルーツなら、たとえばアイスクリーム主体のパフェなど無難に仕上げることもできるでしょう。でも辻口さんは、さまざまな技術と緻密な計算を凝らして、ある意味クラシカルなスタイルでまったく新しい美味しさを提示してくれました。トップパティシエの真骨頂を見た思いです」

辻口氏は今回、ルビーロマン栽培の現場を視察できた意義の大きさについて話します。
「ブランドを一からつくり上げ、守っていく。生産者の方々の並々ならぬ情熱を肌で感じました。種苗の流出に対する危機意識も想像を超えたものでした。商品化率が50%を超えた年は過去たった2回だけ。29%に低迷した年もあるそうで、いまだ栽培方法は試行錯誤が続いているといいます。そういう意味では、まだ進化している、そして今後も常に進化し続けていく。奇跡的に生まれたブドウ、ルビーロマンはこれからも神秘的な存在であり続けるのだと思います」

そのルビーのごとき珠玉の味わい。年に一度の旬を確かめるのは、日本に暮らしているからこそ体験できる口福と言えるでしょう。

それぞれの素材の配置、バランスを試行錯誤しながら最終形へと向かう。
パティシエとしての修業経験もあり、辻口氏を尊敬するONESTORYフードキュレーター・宮内隼人。「どこをすくって味わってもプロフェッショナリズムが感じられる」と感服。
丹精込めて育てられたルビーロマンと辻口氏渾身のスイーツ「ルビーロマン」。気高いルビーの輝き。
辻口氏独立の出発点となり、今なお旗艦店として絶大な人気を誇る自由が丘『Mont St. Clair』。

Photographs:SHINJO ARAI
Text:KOH WATANABE
(supported by 石川県)

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