Report取材レポート

生産者の情熱が育む能登の“赤い宝石”「能登大納言小豆」。

能登特有の風土のなかで栽培された、全国に誇る大納言小豆。

大きく艶やかな粒は、なんと1粒のサイズが普通小豆の約2~3倍! 鮮やかな赤色が特徴で、その美しさは、宝石にたとえる人もいるほど。見た目の良さだけでなく、「大粒の豆をそのまま生かすことができ、皮が柔らかで風味がよい」と、県内の和菓子店からも高く評価されています。

まんじゅうやようかんなどの和菓子や甘味に欠かせない小豆は、かつて中国・朝鮮半島を経て日本に伝わり、『古事記』にもその名が記されました。石川県には能登大納言小豆という当地ならではの小豆があり、そのルーツとなるものは遅くとも江戸時代中期にはすでに能登で作付けされていた記録が残っています。

ミネラル豊富な珪藻土が広がり、なおかつ栽培時期の7月から10月にかけては日本海沿岸で「あえの風」と呼ばれる風が吹くことにより病害虫を招く露が払われるなど、特有の環境が栽培に適していることから、珠洲市をメインに輪島市、穴水町など奥能登一円で栽培されてきました。しかし、能登大納言小豆は各地で細々と受け継がれてきたため、長い歴史のなかで多くの在来系統があり、品質が安定しませんでした。こうした問題を解決するため、石川県農林総合研究センター農業試験場が、5年の歳月をかけ、多くの在来系統から最も優れたものを選抜し、平成21年度から統一した系統で栽培されています。

収穫を終えた畑を背にする生産者の豊平氏。親から畑を受け継ぎ、能登大納言小豆を作り続ける。

収穫ゼロの年も──栽培の難しさに四苦八苦。

遠くに日本海を見渡せる珠洲市内の見晴らしの良い畑で、夫婦二人三脚で能登大納言小豆を栽培している豊平慶二氏は、品種選別に携わった一人。豊平氏のようなこの道30年以上というベテラン農家でも「収穫がゼロの年がある」ほど、実はこの小豆は栽培がとても難しいと言います。「台風がやってきたり、害虫にやられたりすることもある。能登大納言小豆はもちろん自信を持っていい小豆だと言えますが、私の畑も完璧にすべてを収穫できたと満足できた年はほとんどありません」

種まきは例年7月に行われます。しかしながら、令和7年度の珠洲では格段に雨が降らず、残念ながら発芽しない畑がたくさんあったそうです。「地表からどのくらいの深さのところに種をまくかによって、生育に大きな違いが出ました。地表から浅い部分にまいた種はほとんど発芽しませんでしたが、深いところにまいた種は発芽しました。その時の状況によって試行錯誤する日々です」

無事に発芽したら、今度は害虫との戦いです。葉や花が食べられたり、病気になったりしないよう、ケアに奔走します。「来年にはまた別の虫が飛来するかもしれません。こればかりは先が読めない。虫も進化するのか、対策してもさらに強い虫が出てくる。完全にいたちごっこです」

夏は開花の時期。次は台風の心配が頭をよぎります。小豆は花が咲く時期が、一株の中でさえばらつくため、畑全体の小豆を一斉に収穫することができません。そのうえ、一度にできるだけ多く収穫できるギリギリのタイミングを待つうちに、小豆が台風で飛ばされてしまえば、すべて台無しになるのです。台風の季節が終わるまで生産者の不安は尽きません。

乾燥、そして手選別──人の目と手がこの上なく品質を高める。

台風の季節を乗り越え、10月にようやく収穫の時期がやってきます。能登大納言小豆ならではの収穫方法に「さやぼり」と呼ばれるものがあります。2~3週間くらいかけて何度も畑に足を運び、熟したものからひとさやずつ丁寧に手で収穫していくのです。

しかし今では、「さやぼり」による収穫は少なくなり、大規模農地では機械化も進んでいるそうです。豊平氏も現在は手作業で株ごと刈り取り、脱穀機でさやから実を外しています。「さやぼりだと、1日かけて収穫しても両手ですくって10杯分くらいですから。本当に大変な作業でした」

手刈りした株。乾燥機にかけて脱穀機に入れ、実を取り出す。
まだ熟しきっていない緑のさやは乾燥によって成熟させる。35度に熱した乾燥庫に入れたまま1日おいて、夜は一旦、温度を落として翌朝からまた加温し乾燥させる。これを3日間続ける。

畑で自然に成熟した小豆もすべて乾燥させます。

水分量を量る機械もあるが、豊平氏ほどのベテランになると、手で触ったときの感触と粒がぶつかる音でだいたいの水分量がわかるという。

乾燥を終えると、専用の機械を用いて粒の重さごとに仕分けします。さらには、人間の目で、異物やしわのある豆を探し出し、手で選別します。「口に入るものですから機械に任せるだけでなく、絶対に人の目でやらないといけないんです」――そう語る豊平氏の言葉に、生産者としての責任感と矜持がみなぎっていました。

JAのとで販売している能登大納言のパウンドケーキ。

生産者の情熱が宿った一粒は心にしみ入る味わい。

収穫してからも、こうした地道で気の遠くなるような作業が続きます。「それでもなぜ作り続けるのかと聞かれることがありますが、能登大納言小豆は歴史のある作物ですから、簡単にはやめたくないんです。一年を終えたらまた来年、たっぷりと実がつくまでやってみようという気になる。しっかり実らせるまでがんばります」と豊平氏。

手選別を終えた小豆はJAで一時保管され、注文に応じて全国に出荷されます。
能登大納言小豆は全国から引き合いがあり、さらなる生産量増が期待されています。現在、珠洲市では約30名の農家が生産に携わっています。「せっかくこんなにすばらしい小豆があるのだから、この先も作り続けてもらえるとうれしいですね」
最近では、関東圏の一般消費者の方などから小豆の手選別体験をしてみたいという要望も増えていると言います。「実際に小豆に触れてみると愛おしくなるのか、みなさん喜んでいらっしゃいます。こんなにきれいな実ができるんだよということを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいですね」
手選別の体験を通してつくり手の手間や思いに触れた人が、能登大納言小豆の価値を自分の言葉で語り、味わい、また誰かに届けていく——そんな広がりも生まれています。

大きな粒と鮮やかな色味の能登大納言小豆は、豊平氏をはじめとする生産者がさまざまな自然の脅威と格闘しながら丹精した賜(たまもの)。加賀藩の文化政策とともに発展した石川県が誇る和菓子や、洋風にアレンジしたスイーツ、赤飯などで、その奥深い味わいを体験してみてはいかがでしょうか。