Report取材レポート

瑞々しさと真っ白な柔肌が誇り。金沢の冬の風物詩「源助だいこん」。

肉質が柔らかで瑞々しい「源助だいこん」。砂地からのぞく白い肌が美しい。

真っ白できめ細やか。ずんぐり型が愛くるしい「源助だいこん」。

白く、美しく、きめが細かく、甘く、瑞々しい。円筒型のずんぐりとした愛らしいフォルムが特徴的な「源助だいこん」。柔らかな肉質としっかりした甘み、滑らかな口当たりを持つ「源助だいこん」は、県内はもとより関西圏の市場でも“天下一品の味”と称され、石川県を代表する特産物として不動の地位を築きました。煮崩れしにくい特性を活かし、金沢おでんや鰤だいこんなどの煮込み料理で真価を発揮。ふろふき、酢あえ、大根ステーキ、サラダ、そして石川の名物・大根寿司など、アイデア次第で料理の幅が広がります。

金沢の冬の食卓を彩る、この特別なだいこんには、試行錯誤の歴史と人々の情熱が詰まっています。

根部にビタミンC、葉部にはカルシウムや鉄分、ビタミンA・Cなどを含む栄養価の高い野菜。
砂地は乾燥しやすいため昭和33年にかん水施設(スプリンクラー施設)を導入。以降、本格的に栽培されるようになった。

「この地ならではの味を」。受け継がれる創業者の誇り。

「源助だいこん」は、正式名称を「打木源助だいこん」といい、金沢市打木町で誕生した、まさに“砂地の利“を生かした加賀野菜です。その歴史は、昭和7年、篤農家・松本佐一郎氏の取り組みから始まります。

「源助だいこん」の生みの親、松本佐一郎氏の孫、松本充明氏。最盛期(昭和40年代半ば)には砂丘畑を中心に約400haの作付けが行われた。

佐一郎氏は、愛知県の篤農家・井上源助氏が育成した、宮重系統の中から早生種で生育の旺盛な品種を、日本海側の砂丘地である打木町に持ち込み、在来種の練馬系打木だいこんと自然交雑したものを毎年選抜し続け、約10年の歳月をかけて、現在の「源助だいこん」を誕生させました。

収穫時期は、10月下旬~12月上旬で、旬は仲秋~晩秋となる。

「源助だいこん」は、従来のだいこんに比べて収穫量が多く、病気にも強いことから、徐々に栽培する農家が増加しました。昭和35年には、地域の一大産業として確立し、収穫量は3,000トンに達するまでに成長しました。しかし、栽培の難しさから人気にかげりが見え、生産者も減少しました。一時は創業家である松本家のみで、伝統を守り続ける時代もあったのです。

「若手生産者が切磋琢磨して美味しい源助だいこんを作ろうとしているのが嬉しい」と松本氏。

「創業家として源助だいこんを絶やすわけにはいかない」。そう決意した佐一郎氏のご子息そして孫である現「JA金沢市打木源助大根部」部長・松本充明氏は、伝統を受け継ぎ、新たな章を開くべく奮闘を続けました。平成9年には、加賀野菜としてブランド認定されたことで、再び生産者が増加しました。その時を「大きな転機となった」と振り返ります。若手農家のUターン組も加わり、それぞれに試行錯誤しながら、伝統を守り、進化させようとしています。

おいしさの秘訣は、ご機嫌伺いを忘れないこと。

「源助だいこん」の栽培には、高度な技術と生産者たちのこだわりが不可欠です。土壌の状態、肥料の配合、そして日々変化する天候との戦い。すべてが、品質を左右する重要な要素となります。「長さ、太さ、肌のキメの細かさ、瑞々しさ。一定の水準をクリアしないと市場には出せません」。そう語る松本氏の言葉には、産地全体で「源助だいこん」の品質を守り抜くという強い意志が感じられます。

ずんぐりとした形が特徴的。鮮度を保つために葉は切り落として出荷される。

「源助だいこん」は、暑さに弱く、デリケートな野菜です。8月下旬には種まきを行うのですが、近年は猛暑の影響で、時期をずらすことも。露地栽培とハウス栽培の二つの方式で、丹念に育てられ、根径8cm、根長22〜25cmサイズになったものが市場に供給されています。露路栽培は10月下旬〜11月中旬頃、ハウス栽培は11月中旬〜1月下旬頃まで出荷されます。栽培は、計画的に生産農家全体で割り振り、収穫が途切れないように調整を図ります。トップバッターは松本氏。まだ暑さの残る一番難しい時期から栽培する役割を担うことで、その年の出来を占うとともに、育成の傾向を共有します。

安定的な供給を目指してはいますが、やみくもに長期出荷を担保したいわけではありません。「『源助だいこん』はあくまで旬の野菜。寒くなったら、ああ『源助だいこん』の季節やねって思ってもらいたい」。そう語る松本氏の言葉からは、旬ならではの美味しさを届けたいという強い思いが伝わります。

瑞々しさがわかる切り口。冴え冴えとした白さが美しい。

「源助だいこん」の美味しさの秘密は、生産者たちの愛情と日々の努力にあります。「毎日畑に行ってだいこんの顔をみて、声に耳を傾けて、声をかけることが大切」。そう話す松本氏。「先輩農家の方々は、野菜から声が聞こえると言いますが、私はそこまで達していない」と松本氏は謙遜します。それでも、毎日の様子を見ていると、「『ちょっと暑い』とか『もっと水がほしい』くらいはわかるようになる」といい、そこで、土の状態を確かめ、水をやったり控えたり、肥料の調整を行います。「『源助だいこん』は手がかかる。でもその分可愛い」と愛おしそうです。

鮮度抜群の「源助だいこん」を食卓に届けるための努力。

「源助だいこん」の収穫は、日付が変わる頃から始まります。デリケートなため、一本一本手作業で収穫し、水洗いを行います。泥のついただいこんが水に洗われ、まっしろな柔肌が現れる様子は美しいの一言に尽きます。真冬の真夜中の作業になるため、若い生産者からは「正直、辛い」との声が漏れることもありますが、皆、朝一番、瑞々しいだいこんを届けるため、と、熱い思いで出荷作業をしています。

デリケートなため、一本一本手洗いで泥を落としていく。

今、部会の若手生産者たちは、松本氏を頼れる兄貴とも師とも慕い、「もっとおいしいだいこんを作りたい」と、きめ細かい綺麗なだいこんにするにはどうしたらいいか、試行錯誤と工夫を重ねています。また、この時期の部会の話題はだいこんのことでもちきりだそう。それは、全員が「源助だいこん」への情熱と責任感を共有し、より美味しいだいこんを届けることを目指しているから。日々切磋琢磨する若手たちの情熱こそが「源助だいこん」を未来へつなぎます。

「柔らかく味が浸みこみやすいことからカレーやシチューとの相性が良いですよ」と松本氏。ホワイトシチューやクラムチャウダーが学校給食のメニューに採用されている。

地元の学校と連携したワークショップや消費者を招いての見学会を通して、源助だいこんの魅力を伝える新しい取り組みも始まっています。松本氏のおすすめの食べ方は「やっぱり煮るのが1番かな。1日目、2日目、3日目と味が染み込んでいく味の違いを楽しむのがまたいいんや」とのこと。煮るのはもちろん、焼いても、生でも美味しい「源助だいこん」を通して、毎日の食卓の会話が弾む様子が目に浮かびます。