Report取材レポート

頬張れば誰もが笑顔に。みんなに愛される、甘くて “コッボコボ”の「五郎島金時」。

全国でも珍しい、砂地で育つ名物いも。

ふかした「五郎島金時」のホクホクの食感は、金沢弁で“コッボコボ”と表現されます。甘くてどこか懐かしいその味わいは、おまんじゅうや団子、スイートポテトにパウンドケーキ、焼酎など、加工品でも大人気。石川を代表する秋の味覚として親しまれています。

その始まりは、遡ること300年以上前の元禄時代。五郎島村の大百姓・太郎右衛門が、薩摩の国(現在の鹿児島県)から種いもを持ち帰り、栽培したと伝えられています。明治10年に開墾された五郎島界隈の砂丘畑に作付したことから商用としていもの栽培がスタート。以来、村全体で生産されるように。昭和59年には正式に「五郎島金時」と名付けられ、美しい赤紫色で形が良く、さらに甘いと全国に知られるようになりました。

主な産地は、金沢市の五郎島・粟崎(あわがさき)・大野地区の砂地。JA金沢市五郎島さつまいも部会長の忠村哲二氏は、亡き父から畑を引き継ぎ、約20年にわたって粟崎で「五郎島金時」の栽培を手がけ、全34戸の生産農家をとりまとめています。

父から畑を引き継いだ当初、約4千歩(ぶ・1歩で1坪)だった畑は、貯蔵庫や機械化などの革新を進め、現在、約1万歩にまで広がった。五郎島金時を栽培する難しさは「とにかく掘ってみないとわからないところかな」と忠村氏。「どんなに肥料や水に気を配っても、最終的には天候が出来の良し悪しを決定付ける。だから、一番大事なのは『おいしくちゃんと育つように』と手を合わせることかもしれんね」

専用肥料で均一な高品質生産を実現。

苗の植え付けは4月下旬から6月にかけて。苗を植える一週間前に肥料をまきます。肥料の効き方はなんとも繊細で、早かったり遅かったりとなかなか読めないのも「五郎島金時」の栽培で難しいところだと言います。

一般的に他産地のさつまいもは大きさを追求して栽培されることが多いのですが、
「五郎島金時」は100~150gほどのいわゆる「食べきりサイズ」を目標に栽培されます。このサイズが一番手に取りやすく、おいしく食べることができるので、大きくなりすぎないように肥料の量を制限し、理想の大きさを目指しています。圃場によって太陽や風のあたり方、地力の違いもあり、株の間を狭めたり、広げたりしてみたりして肥料のより効率的な効き方を探るなど、各農家で工夫しながら栽培しています。
「五郎島金時」は全国では珍しく砂地で育つ品種のため、一般的な肥料ではなく、米ぬかを主体とした専用のものを部会で開発して使用。毎年試験をしながら細やかに成分調整をしています。
追肥はしません。栄養を吸収しやすい特性から、追肥をすると急激に成長し、形がいびつになってしまうためです。肥料を減らすことでデンプンの含有量を高めるという効果も狙っています。
こうして肥料の素材から投与の仕方まで厳格な規定を設けることによって、産地全体で高品質を保持しているのです。

地温が上がりやすい砂地は水の管理がいっそう肝心。

夏を迎えると、忠村氏はスプリンクラーでの水の管理に気を揉むと言います。ほとんどの畑はスプリンクラーが整備されており、水の心配はないそうですが、場所によっては配管の整備が完全でなく、水やりが困難な時もあるからです。また、風の強いエリアでもあるため、水がうまく株にかからないと、砂地ゆえに地温が急激に上がり、さつまいもの色に悪影響が出るのです。それでも、この地区の農家は自分たちで配管の整備もやってのけるような職人気質の人が多く、これまでの酷暑を乗り越えてきたのだそう。このようなたくましい農家の存在によって「五郎島金時」は安定した収量をキープしてきました。

砂地で栽培するのは大変ですが、メリットも大きいと忠村氏は言います。粒子が細かい砂地はいもの肌に傷がつきにくく、ストレスなく育ち、味に深みが出るのだそう。

いも掘りは3段階の作業でようやく実現。

「五郎島金時」は早掘りの品種で、8月下旬には収穫が始まります。昔は10月にならないと掘らなかったそうですが、人気が出てきて、市場からの求めに応じて収穫時期がどんどん早まっています。
とはいえ、いも掘りも一筋縄ではいきません。大きく3つの段階に分けてようやくいもが土から顔を出すのです。まず、専用の機械でつる刈りをします。次に、株を手作業で1つひとつ取り除きます。つると土の中のいもをつなぐ株は非常に強力なため、人力で丁寧に取り除かなければ、いもに傷が付いてしまうのです。最後にいも掘り機で掘り起こしていきます。9月下旬には一日中いもを掘る「掘り込み」の作業に入ります。来年6月までの出荷分を掘り溜めするのです。

つる刈りの作業。葉が黄色味を帯びてきたら掘るタイミングの合図。
つる刈りを終えた後に、株を手で引き抜く。力が必要な大変な作業。
掘り起こされたいもを、ベルトコンベアーからコンテナに入れていく。忠村氏の畑では、最盛期には6人で1日にコンテナ約200個分(約4000kg分)を収穫するという。

コンテナに入れた収穫分を作業場に持って行ったら専用の機械で「ひげ(※)」を焼き取り、高圧水ブラシ洗浄機で洗い、選別・箱詰めし、出荷します。
なんと「五郎島金時」では、品質を秀・〇秀・長・コロ・良・外・切の7区分、さらに階級は3L~4Sなど、全30等階級にまで細かく選別することになっています。年々細分化していく消費者のニーズに対応するためです。他産地のさつまいもはせいぜい10種類以下に分類する程度だそう。「かゆいところに手が届く品揃えが自慢です。天ぷら用、贈答用など、いろいろな用途に応じることができます」

※さつまいもの表面にはえるヒゲのように細い根のこと

さっと火にかけて「ひげ」を焼き取る。
高圧水ブラシ洗浄機で砂を洗い落とす。サツマイモは本来、水に弱いため水で砂を洗い落とす“洗い品”を出荷するのは水の影響を受けにくい11月頃まで。それ以降は砂をさっと払った状態の“払い品”を出荷する。
専用の機械にいもを入れたコンテナを載せ、一つずつ3L~4Sまで階級ごとに仕分けする。いもを一つ手に取るごとに重さの変化で機械が自動的に階級を判断し、音声で知らせてくれる。

全国屈指のキュアリング貯蔵庫の活用で長期間の出荷が可能に。

いもは秋口に収穫してしまいますが、キュアリング貯蔵によって翌年6月まで品質を保ったまま出荷することが可能です。平成17年に当地に建設されたオール電化のキュアリング施設は当時日本一と言われ、各地から関係者が視察に訪れたほど画期的なものでした。現在も全国トップクラスの機能を保持しています。

温度32~33℃、湿度100%に近い貯蔵庫内で72時間保管することによって、いもの皮と実の間に4~5層のコルク層が形成されます。これが細かな傷から侵入する病原菌からいもを守ってくれるのです。さらに、いものデンプンの糖化も進み、旨味もいっそう深まります。

形良く、色も美しいのが「五郎島金時」の魅力の一つ。

貯蔵庫で72時間保管した後、一般的にはすぐに冷房をかけて温度を下げていもを冷やすそうですが、「五郎島金時」は常温の状態に一日慣らしてから冷房をかけることで、いものストレスを軽減。他産地のいもに比べて日持ちが良く、おいしさも一段階アップした仕上がりになるのです。

栄養も満点! サラダにも炊き込みごはんにも大活躍。

「五郎島金時」は、疲労回復にも効果的なビタミンB1、抗酸化作用が期待されるビタミンC、免疫力強化などに役立つβカロチンのほか食物繊維なども含み、お通じの改善にも効果的とされます。
「五郎島金時」を使った焼きいも、ふかしいものほか、いもごはんも親しまれますが、忠村氏のおすすめメニューはスイートポテトサラダとコロッケだそう。
うっとりするような甘さで秋の訪れを知らせてくれる「五郎島金時」。“コッボコボ”の楽しい食感にも、きっと夢中になりますよ。