ひと口で元気漲(みなぎ)る! ふっくら大粒、粒感際立つ「ひゃくまん穀」のごはん。
石川県を代表する大粒の米は食べ応え満点。
「『ひゃくまん穀』のごはんを盛った茶碗に箸を入れると、ぐっと重みを感じるんですよ。お米の旨味もしっかり感じられる。食べ盛りの子どもたちにおなかいっぱい食べてほしいね」と笑顔で語るのは、「ひゃくまん穀」生産者部会・副部会長の長瀬清隆氏。約800人の生産者のなかで試験米の栽培から携わってきた一人です。「うまく育つかどうかは全くの未知数でしたが、とにかく期待は大きかったですね。稲の姿を見つめながら丁寧に育ててきました」
石川県のブランド米、「ひゃくまん穀(ごく)」は、おいしさと作りやすさを兼ね備えた米を目指し、9年もの試行錯誤を経て2017年に誕生しました。コシヒカリと比べて粒の長さは1.1倍、重さは1.2倍と大粒で、ゆっくり、じっくりと育つ晩生(おくて)品種。現在、コシヒカリ、ゆめみづほと並び、石川県産米の主力品種の1つとなっています。
県内全域で栽培されており、2023年度の生産量は約1万2000tに。全国各地のブランド米のなかでも成功を収めた産地銘柄としても注目されています。
地力の強い干拓地で育つことで、養分をたっぷり吸収。
邑知潟の干拓地にある長瀬氏の田んぼ。見渡す限り水田が広がり、時折、七尾線の電車がゆっくりと走り抜けます。「干拓地ができた約40年前とほとんど変わらない風景です」と長瀬氏。現在、妻と2人の娘婿の4名で米作りに取り組んでいます。
約65ヘクタールの農地で7種類の米を栽培。農地のうち約1/4を「ひゃくまん穀」の栽培にあてています。「干拓地は地力が強く、『ひゃくまん穀』の栽培に適していると思います。そして、干拓地の田んぼはとにかく深い。小さな重機が一晩で沈んで消えてしまうところもあるほどです。でも、そのくらい深い田んぼのほうが米はよく育つんです。根が張りやすく、その分、土の持つ養分をたっぷり吸うことができるから」
地力があるとはいえ、「ひゃくまん穀」の栽培にはレベルの高い技術が求められます。各生産者には目標値として10アールあたり700キロ(※)というかなりの収量が掲げられているのです。「昨今の気候の影響もあるので大変ですが、いろいろ工夫をして目標達成を目指しています」
※「コシヒカリ」の目標値は10アールあたり530キロ
「ひゃくまん穀」では特別な土作りが推奨されており、同品種専用の肥料「ひゃくまん馬力」も開発されました。稲を丈夫にする高溶出ケイ酸のほか、リン酸、アルカリ、苦土、その他の微量要素をバランス良く補給しており、「ひゃくまん穀」の品質向上に一役買っています。
天敵と格闘し、生態系を壊さないように栽培。
品質を安定させるため、「ひゃくまん穀」は全量、純粋な種子のみで栽培することが徹底されており、自家増殖は行われていません。栽培は良い苗を作るところからスタートします。毎日、朝・昼・晩と苗の状況を巡視し、必要に応じて水を与えてハウスの換気を行い、苗がある程度の長さになったら早めに田植えをします。田植えをして1ヶ月半ほどの間は、やはり朝・昼・晩と水田を巡回し、ここでも水の管理を徹底します。「お米は手をかければかけるほど、ちゃんと応えてくれるんです」
田植え後は天敵・ザリガニとの戦いが始まります。膨大な数のザリガニによって田んぼに穴が空けられ、水がもたなくなってしまうのです。だからといってザリガニを簡単に駆除することは憚(はばか)られると長瀬氏は語ります。「なぜならザリガニはトキの餌になるんです。勝手に生態系を壊してしまうようなことはできません」。石川県能登地域はトキ放鳥の候補地となっており、早ければ令和8年度のトキ放鳥に向けて、トキが暮らしやすい環境づくりに取り組んでいます。トキの成鳥の羽はうすいピンク色で「トキ色」と呼ばれており、ザリガニを食べることでこの色になるそう。何万匹ものザリガニが作る穴を見つけたら、とにかくふさぐという作業が毎日繰り返されます。
イノシシにも細心の注意を払います。イノシシは米を食べることはないのですが、田んぼの中で稲に体をこすりつけるようにして転げ回る習性があります。そうすると、米にイノシシのにおいがついてしまってとれなくなり、大損害になるのです。これを避けるため、柵を設置して備えています。
もう一つの大敵は、近年の酷暑。穂の出始めに高温が続くと、米が真っ白になって砕けてしまうのです。しかし、「ひゃくまん穀」は晩生品種のため穂の出始めと最も暑い時期が重ならないことで、ほかの品種よりも影響が少ないのではと長瀬氏は語ります。
コシヒカリの稲刈りから2週間ほど経ってから、稲がまだほんの少し青みがかっているうちに刈り取ります。
収穫したら米をふるいにかけて選別をし、1粒の厚みが1.9ミリ(LL)以上のものが「ひゃくまん穀」として出荷されます。
暮れ起こしで、しっかりと土に養分を蓄えさせる。
稲刈りを終えた後も、来年の栽培に向けた作業は続きます。気温が高いうちに、刈った後に田んぼに残った藁(わら)や、その根をしっかりとすき込む「暮れ起こし」が行われます。気温が高いうちにすき込むことによって土のなかで稲や藁の分解が進み、腐熟することで養分の豊富な土になるのです。
冬の寒い時期では分解の進みが鈍くなり、来期の田植えの時期に分解されなかった稲や藁が水に浮いて、新しい苗の育成を阻んでしまいます。「ひゃくまん穀」はとりわけ茎が丈夫で硬く、腐熟に時間もかかるため、できるだけ暖かい時期にこの暮れ起こしをして、一年の作業は終わりを迎えます。
能登半島地震を経て――。
2024年、元日に発生した能登半島地震は田んぼにも大きな影響を与えたと言います。「液状化によって普段触れる土とは違う質感の土や砂が表面に出てきたところもあります。納屋が壊れて農作業が難しくなったという生産者から栽培を請け負うことになり、作付面積もぐっと増えました」。現在は娘婿が土や苗、稲の状態をこれまで以上に細やかに見極め、昨年のデータと見比べながら、来年度の栽培計画を立てています。
「以前は勘に頼っていたところも多かったですが、若い2人がデータをとって、的確な農業を実践してくれている。心強いですね」
新米は少なめの水加減で炊くのがおすすめ。
「ひゃくまん穀」のおいしい炊き方のコツは、あまり水に浸しすぎないこと。ふっくら大粒で、冷めてもごはんの硬さやねばりの変化が少ない「ひゃくまん穀」は、お弁当などで冷めたままで食べてもおいしいと評判です。長瀬氏のおすすめは「なんといっても、おにぎり」。粒感がしっかりと感じられ、粘りのバランスの良さも際立つ食べ方だそう。このほか、焼肉等の味の濃いおかずとの相性が良く、酢飯にも適しています。
ひと口かみしめるごとに産地ののどかな風景が目の前に広がり、生産者の真心が伝わってくるよう。四季折々の当地の豊かな山海の味覚との相性も抜群です。